IT日記

Webエンジニアの徒然草

エンジニアへの勉強圧力

職業選びの基準は多々あれど、「好きなもの」を仕事にするというのは一つの答えだ。良いことばかりがあるわけではないので、 モチベーションをいかに保てるかというのは確かに重視しても良いことだろう。下記の紹介図書もそうした意見を持つ著者に綴られている。

かつてMicrosoftに勤め、米国で長年働き、起業もいくつか経験した著者も仕事選びで一番大切なのは「好きだから頑張れる」ことだと説く。その工程にアーティスティックな要素を含むソフトウェア開発において、こうした言説に共感するエンジニアはかなり多いだろう。

そして、日進月歩のテクノロジーに追いつく必要性と相まって、エンジニアの中には余暇を利用しての勉強は半ば当然という文化が形成されている。残念ながら、自発的な取り組みだったはずの新技術を用いた楽しいお遊びが、生き残るための義務へと変貌しているフシがあるのだ。いくら好物といえど、毎日三食であればいい加減嫌気が差してもおかしくはない。

そもそも商売である以上、営利を無視することはできない。食指の動かぬ分野であっても必要であれば情報収集にかられる。また、悪徳な企業であれば、そうしたエンジニアなら業務時間外も研鑽して当然という空気を長時間労働の正当化に利用する。若い時分であれば溢れる気力と体力で多少の苦難は乗り切れるだろうが、大体にして家庭でも持とうものなら新技術の追求だけに時間を割くのは難しい。そのため、多くは一線を退いて管理職、もしくはIT業界特有の初期投資費用の低さを利用して自前で零細事業を営むことになる。

そして、ソフトウェアエンジニアに限らず、その制作物に芸術的な側面を持つ職業は多かれ少なかれ作ること自体に喜びを感じる人間が就く。その反面、金銭的な報酬はなおざりにしがちである。経営側からすれば、これ程搾取しやすい人種もいないであろう。

また、高品質なオープンソースが氾濫する現在において、ソフトウェアエンジニアの仕事は既製品を組み合わせて一つの製品にする側面が強い。そのため、自己の創作の余地は一昔前よりも相当少ないのだ。

不毛なラットレースの過程を果たして、真に楽しめる人間はどれ程存在するのだろう。実際のところ、「好き」という気持ちが根底にあれど、純粋にそれだけを貫けることは人生においてまずない。理想も時に人生を狂わせる劇薬になり兼ねないと思うのは私だけだろうか。

 

エンジニアとしての生き方  IT技術者たちよ、世界へ出よう! (インプレス選書)

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