IT日記

Webエンジニアの徒然草

日本脱出計画

日本は少子高齢化だ。そして、日本の社会保障は現役世代の働きで引退世代を支える賦課方式を取っている。つまり、若手であればあるほど、より少ない人数でより多くの老人世代の生活を支える必要が出てくるのだ。そのために年若い者は増税社会保障費の増額といった憂き目にあう。

それだけでなく、日本の雇用習慣はかなり特殊だ。近年はかなり変化が生じているが、未だ年功序列・終身雇用的な価値観を多かれ少なかれ残した人事制度を採っている会社がほどんどである。同僚との苛烈な競争も少なく、会社からの庇護を受けられる制度ではあるが、その引き換えに構成員は会社に服従・隷属を求められる。本来、対等であるはずの労使契約とはかなり違った異端の労働様式が主流の国なのだ。

そうした日本特有の事情を嫌ってか、海外就職・転職が少しずつ注目を集めてきている。特に、ITエンジニアはシリコンバレーの存在するベイエリアの高騰する給与水準を始め、諸外国との労働環境・待遇の違いと相まって、海外就職が有望な選択肢となることも他職種より多い。

テクノロジーは世界共通である。法律や商習慣に左右されてノウハウが変わるビジネスサイドの人間とは違い、エンジニアの専門知識はどこの国であっても変わらず通用する性質のものだ。日本で培ったスキルは他国へ移ったとしても、ほぼそのまま通用する。

ましてや、IT関連のノウハウをインターネットを通じて個人レベルでも発信することが良しとされる文化がソフトウェア業界には存在する。成果物であるソフトウェアですら、無料で中身を公開することが当たり前のように行われている奇特な業界である。ノウハウが世界規模で標準化されている非常に開放的な産業なのだ。

また、他言語圏で働く場合、当たり前だが当該言語を一定程度操る必要が生じる。しかし、ITエンジニアの場合、この言葉の壁は他職種よりも相対的に低い。様々な利害関係者と微妙な言葉の綾にまで気を使ったコミュニケーションが要求される営業職や管理職の人間とは違い、比較的習熟しやすいレベルの言語能力さえあればやっていけるのがその理由である。端的に言って、技術英語は分かりやすい。(英語でなくとも、おそらく事情は同じであろう。)

SIerで中途半端な中間管理職の経験しかないシステムエンジニアならいざ知らず、一定以上の開発能力を有したソフトウェアエンジニアであれば、海外就職はかなり現実的な選択肢である。

とはいえ、本稿はソフトウェアエンジニアに対して海外就職を煽る意図は毛頭ない。

ベイエリア(シリコンバレー)の他、アジアであれば香港、シンガポールあたりがそうした海外就職の目的地になることが多いが、そうした産業の集積地は主に不動産価格の違いにより生活コストが日本よりもかなり高くなる。給与水準の上昇額が費用の増加分を下回るようであれば、渡航を今一度検討し直した方が良い。特に、現在のベイエリアのエンジニアの給与水準はいささかバブルの感がある。現状の給与水準で今後の計画を立てるのは楽観的過ぎるだろう。

また、単に海外就職するというのであれば、生活コストの安い東南アジア辺りに移住し、リモートで日本の仕事をこなすといったアプローチも考えられる。しかし、こうした地域は年々その経済成長に伴い賃金水準・物価水準も増加傾向にある。円建ての収入源しかない場合、収入は変わらないのに生活コストだけは上昇していく、といった状況に陥りかねない。このやり方では、実質賃金は今後ほぼ確実に減少していく。経済発展が著しい地域にただ行くだけで、その恩恵に与れると考えるのは浅はかな人間のすることだ。

この世に楽園は存在しない。

 

実際に渡米してからは、「もう少し続けてみよう」「もう少しやっていけるかも」で、すでに10年以上が過ぎてしまいました。

そして今現在どうかというと、「最高にハッピーというわけでもなければ、特別不幸でもない」というのが正直なところです。