IT日記

Webエンジニアの徒然草

IT業界の変化は別に激しくない。

IT業界は変化が激しいとよく言われる。実際、世界中の個人や企業により、日々多くの製品が開発されている。しかし、その実態は単なる玉石混交であり、既存の類似品を即座に淘汰するほど革新的なものなど滅多に出現しない。

確かに、既存製品が完璧であれば、類似品を新たに作ろうなどというモチベーションは湧き難い。新製品の方が何らかの新機能を備えていたり、特定の領域で比較的高いパフォーマンスを上げたりする傾向があるように思えるのも確かだ。

しかし、多少の洗練が見られたところで、概ねできることは既存製品と大して変わらないことがほとんどである。ある点で秀でている代わりに他を犠牲にするなど、一長一短なこともある。それどころか、開発者の個人的な拘りを反映しただけとしか思えないものも珍しくない。ましてや、新製品が利益に直結するほどの技術的な参入障壁を築く革命となることはまずない。雨後の筍のごとく湧いてくるスマートフォンなど携帯端末の新機種群が良い例だ。

そもそも、先端的なものは、当たり前だが時の試練を経ていない。使用事例が少ないということはそれだけ潜在的な不具合が多い可能性があり、既存製品であれば備えている機能を具備していないなどのリスクが考えられる。

先行者利益を目指す新興企業であれば、そうしたリスクを取ってでも積極的に新しい要素を取り入れる気風は確かにある。しかし、その試みはもちろん功を奏するとは限らない。結果的に成功すれば華々しく喧伝されることも多かろうが、失敗事例は秘匿される傾向にあるものだ。所詮は勝てば官軍、負ければ賊軍というだけの話に過ぎない。

特に、多少の使いやすさや後々の機能追加に資する拡張性を犠牲にしてでも正確にシステムが動作することを望む重厚長大系の産業においては、新規技術の導入はおいそれとは実施されない。ミッションクリティカルと呼ばれる金融機関の基幹システムの一部でCOBOLという化石のようなプログラミング言語が今だ現役で使われているのは、業界でエンジニアを生業とする者には周知の事実だ。

また、もし新たなトレンドが生まれたとしても、未踏領域は過去の良質なソフトウェア群を参考に開拓されることが多い。そして、新製品は過去の反省を踏まえ、開発者にとってより使いやすく洗練されている傾向がある。既存の枯れた製品の概念や考え方が応用できる面も大きく、とりあえず使い方を覚えるのに多大な時間はかからないのが常だ。

川の表面は一見激流かも知れないが、少し潜ってみれば中は案外緩やかなものである。多量の情報を取捨選別するある種の要領の良さは求められるだろうが、ただそれだけの話だ。別に、IT業界に属する者達が特別に学習に長けた超人揃いというわけではない。競争相手も単なる人間なのである。長らく経ってから過去を振り返ってみれば確かに変化はあるだろうが、あくまで漸進的なものに過ぎない。トレンドに変化があるのは、何もIT業界に限った話ではなかろう。

正直、「変化が激しい業界なので余暇をも利用した学習が必要」などと焦らせることで得をする人間と、それに扇動された間抜けによるポジショントークにも見える。

同業者に差をつけるために業務外で研鑽に励むのは個人の勝手だ。また、プライベートでのソフトウェア開発をライフワークとする者もエンジニアには珍しくない。

しかし、それらはあくまで個々人の自由意志によってなされるべきものである。決して雇用主が義務として定めるべきものでも、他人に強制すべきものでもない。