IT日記

Webエンジニアの徒然草

21世紀のキャリアパス

前回、下記の紹介図書を否定的な論調で語ってしまったので補足しておきたい。本書はできるだけ名の通った高偏差値の大学を卒業し、一部上場の大手企業へ入社し、定年までそこに勤めるという旧来的な終身雇用の価値観に疑問を投げかける。

勤め先はキャリア上の通過点に過ぎず、必要であれば転職も辞さない。若手が権限や金銭の面で恵まれない官僚的な内資の大手企業に否定的であり、進取の気性を持つ者にはベンチャー外資系企業を勧める。そして、日本国内だけでなく国外就業も視野に入れ、そのための準備を怠るべきでないと説く。大手企業に入社すればそれだけで安泰なわけでない、と言われて久しい現代において、至極まっとうな言説を展開する良書なのだ。

著者自身、長く米国で働いており、日本と米国のIT企業との違いを肌で感じているのではないか。そして、おそらくこれらはIT業界に限った話ではなく、どの職種・業界であっても当てはまる話なのであろう。

褒めてばかりでは芸がないので、いささか釘を刺しておきたい。当然ながら、キャリアにおいて「これさえやっておけば安全」などという都合の良い話は存在しない。野心を胸に実力主義ベンチャー外資に打って出たところで、そちらも決して楽園ではないのだ。

仕組みの整わない小企業において、悠長な訓練の余裕などない。資本の乏しい会社では、目前の業務をこなすことが第一に要求される。思い通りの職歴を積める者などまずいないのだ。そして、目先の糧を得るため、設立当初には幾ばくか存在しえた高邁な理念を忘れ、大手企業の単なる下請けに甘んじるところも多い。

外資系企業はパフォーマンスが悪ければ解雇される。実力主義を謳ったところで、成果を測る尺度に客観的なものなどまずない。ともすれば属人的な評価基準に右往左往することになる。そして、景気が悪ければ、たとえ本人の成績が良かろうと部署や支社ごと消滅するという憂き目にも会いかねない。どれほど優秀であろうと、人の身で経済現象を制御するのは不可能である。

国外に目を向けたところで、経済成長に行き詰まっているのは物質的な需要が一通り満たされた先進国であればどこも同様である。成長期と同様の躍進が得られないのは国も人も同じなのだ。虚業と蔑まれる金融やITに頼れど、栄枯盛衰、弱肉強食が貫かれる業界で万人の成功は望めない。発展途上国もいずれは経済成長が一巡し、今の先進国と同様の問題に直面することになるだろう。一部では既に、人件費の高騰した中国から生産工場を日本国内に回帰させるといった動きも出ている。

真偽の程はさておき、一昔前は名のある大手企業や役所に入れば安寧な人生が送れると信じられていた。そして、その信仰が幅を利かせる程度には、そこで利得を上げた者も多く存在したのだろう。

現在では幸か不幸か、この信仰はかなり崩れている。国も企業もあてにはならず、分かりやすく整備された道路がない以上、歩む道は自分で決めるしかない。できないより良いのは確かだが、英語ができようがプログラミングができようが、安泰は買えない。

死にたくなければやるしかない、という現実があるだけなのだ。

 

エンジニアとしての生き方  IT技術者たちよ、世界へ出よう! (インプレス選書)

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